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【小話】げんていこうかい。1

日常であまりにネタがないので、
ちまっと書いた小話なんかを晒す試み。

※オリキャラを愛でるだけのブツです。
 これを読んでもしもなんらかがあったとして、当方では一切の責任を持てませんのでご了承ください。

 松毬葵(まつかさあおい)は笑っていれば美人なんだろうと、弥科霧依(やしなきりえ)は切に思う。
 いや、笑っていなくても美人なのだ。
 肩口で切り揃えられた、艶のある綺麗な黒髪。切れ長の瞳に長い睫毛。すっと通った鼻筋に、桜色の唇。
 彼女を構成するパーツ一つ一つが美しい。なので、無表情でも画になるほどだが。
 空調の効いた涼しい店内で、霧依は体育座りの態勢でタオルケットにくるまり、葵を見上げ、
「もったいないネー」
 と言った。
 美しい顔も、怒りに歪んでいたら魅力半減だ。それはそれで味があるのかもしれないけれど、少なくとも霧依にはぶーたれているだけにしか見えない。
 葵は、というと二重の大きな瞳を細めて、じとりと霧依を見、
「もったいないのは人件費よね」
 25度に設定されている空調よりも冷たい冷たい声で言う。鈴を転がしたような綺麗な声をしているのに、硬くて鋭いから、痛い。
 ああ怒っているなと思いつつ、その原因である現状をどうにかする気は、ない。
「働け、このボケカス給料泥棒」
 動かない霧依に、ついぞ葵は口を悪くして言った。
 水曜日。学校が終わって放課後。部活動に勤しんでいない霧依が向かうのは喫茶店『REGRET』。コーヒーと手作りケーキ、それから何種類かのパフェをウリにしている店。そこで霧依は週に五日ほどアルバイトをしている。
 霧依を見下ろす葵も同じく従業員である。細身の身体に半袖の白いカッターシャツと黒いスラックス、それから黒いサロンを纏っている。そんな薄着で寒くないのだろうか、と思う。自分なんてカッターシャツは長袖だし、そのうえ肌着としてヒートテックを着込み、さらにシャツの上にベストを羽織り、ともすればどこかのバーの店員のようにも見える恰好をして、それでも寒いと感じているのに。
「ネーネー。松毬寒くナイ?」
「寒くない。っていうか働けっつってるでしょうよ、給料泥棒」
 二回目の泥棒呼ばわりである。心外だ。だって、
「おれ、給料泥棒するほどの時給もらってないヨ」
「こういうのはお金の問題じゃないの、心意気なのよ」
「さっきは給料泥棒だから働けって言ったのにネー」
「ガタガタ言ってんじゃねーわよ」
「だって働けって言うケド」
 霧依は店内を見回す。
 店内には三人組の男子高校生が居るだけだ。二人が霧依特製パフェを注文して、あとの一人はちびちびと水を飲んでいる。一人一品注文しろよカス、と葵が怒っていたのを、ふと思い出した。
「店内暇ジャン」
「……まあ、暇だけど」
 霧依の言葉に、葵も嘆息する。場所が悪いのか、あるいは宣伝する気がないのか、店内の雰囲気もコーヒーの味もいいのにあまり客は来ない。
 この店のオーナーである伯父伯母夫妻は、「隠れた名店だから、時間が遅くなると客足は遠のくのよ」と頷けるようで首を傾げてしまう理屈を胸を張って言っていた。まあ、問題なく葵を雇ったりしているからそれなりに客は来るのだろう。
「だからさァ、松毬」
「何」
「おれ、帰るヨ」
「……はぁ?」
 素っ頓狂な声が、葵の口から飛び出した。その声に気付いた高校生トリオが、きょとんと葵を見る。その視線に気付いた葵が「失礼いたしました」とうっとりするほどの美声と笑顔で礼を言い、次の瞬間にはギロリと霧依を睨みつけた。鬼の形相だ。さっきの笑顔はどこに行ったんだろう。
「神隠しだネ」
「何がよ」
「松毬のカオ」
「あるでしょーが、あたしの顔はここに」
「ウーン、うまく説明できない」
「上手く説明できない、じゃなくて、上手く日本語を使えない、の間違いじゃないの」
「おれ実は帰国子女なんだ」
「黙れ幼馴染。アンタが三歳の時からの付き合いのあたしがそんな事実認めると思ってか」
「空白の四年間が」
「あったけど、おじさんの仕事の都合で四国行きしてただけでしょ。文通してたじゃない、消印で割れてんのよ」
「デスヨネー」
「ですよ」
「じゃ、帰る」
「……コイツマジ殴りたいてぇ……」
 低く恐ろしい葵の呟きを背に、タオルケットを抱いてカウンターを出た。スタッフルームへ入っていく。
 松毬は万能努力型天才少女だから、おれがいなくてもなんとでもなるよ、と無責任に仕事を押し付けて。
 背後からの殺意満々の視線を受け流し、ばたんと。


 スタッフルームでは、義理の妹が携帯ゲームで遊んでいた。いやそれよりもなによりも、寒い。
 空調調節のリモコンを見た。18度。頭がおかしいとしか思えない。どんな極寒の地にするつもりだ。
「あれ? むいちゃん、お仕事終わり?」
 ゲームの液晶から顔を上げないで、妹――瀬乃斗紫(せのとゆかり)が声をかける。黙って空調の電源をオフにし、タオルケットに包まった。寒い。凍える。死ぬ。
「むーいちゃん?」
 返事がないことに疑問符を浮かべ、モンスターをハンティングするゲームを止めて、紫が霧依の正面にしゃがんだ。ああもう、パンツ見えるからスカートでしゃがむなって言ってるのにこの子は、と思いつつ、
「寒い」
 一言。
 紫は猫みたいに大きな瞳をさらにまんまるく開き、「あははは」と笑った。
「そんなばかなー。むいちゃんアタマおかしいよ」
「ウーン、頭はオカシイかもしれないケド、ゆかりの体感気温よりはオカシくないネ」
「なにそれ?」
「だってこれで寒くナイとか、ゆかり異常だ」
「逆だよ、これで寒いむいちゃんが異常なんだよ」
「そっか」
「そーだよ」
 ぽんぽん、と霧依の肩をたたき、紫が椅子に戻って行った。ゲームを再開する音。
 おれがおかしかったのか。自覚はあったけど、いざ自分よりもアレな子だなと思っていた妹に言われると、ちょっと、というかかなり癪である。
「まいいや」
 すっぱり忘れることにして、着替える。そもそもここの制服が薄着すぎるからいけないのだと責任転嫁。数時間前まで着ていた学校指定の制服に着替えることにした。
 更衣室に入って、エプロンを脱いでスラックスを脱いで制服に履き替えて。上も同じように脱いで着替えて着込んで着込んで。
 更衣室から出てきた霧依を見た紫が、
「うわーむいちゃん、季節感とか、ないね!!」
 と笑った。
 六月にコートを着ていて何が悪いか。
「おれは夏だけあればイイ」
「あったかいから?」
「そう」
「ぼくは冬がいい」
「涼しいカラ?」
「そう!」
 へらっ、と笑った紫が席を立った。いつの間にかゲームは鞄に仕舞われている。
 なんだかんだ、霧依を待っていてくれたのだ。学校が終わって、自分の部活を終えて、それから霧依のバイトが終えるまで。
「ゲーム、いいの」
「うん、電源切れたから」
「…………」
「だからむいちゃんが早めにおしごと切り上げてくれてよかったよー! ぼく、ひまで死んじゃうところだった」
「さよーでゴザイマスカ」
「ございますです」
 鞄を右手に持って、裏口の鍵を開けて外に出る。18度まで冷やされたスタッフルームと違い、外は暖かい。梅雨直前特有の湿度を含んだ空気が冷えた肌を撫でた。
 裏口の鍵を閉め、左手に紫の手を握る。ゲームをやりすぎて強張った、小さくて薄い掌だ。きゅっと握ると握り返された、痛い。
「ねぇねぇむいちゃん、ぼくが暇死にしなかったお礼に、おかいものの荷物持ちしたげる」
「そ? ドーモ。じゃあついでにタイムセールでの死闘、頑張って来てネ」
「へ?」
「今日タイムセール。荷物持ちだけなんて言わずに、しっかり買い物もヨロシク」
「えー! ヤダよ、タイムセールのおばちゃんパワフルで怖いもん」
「ダメ。今日イロイロ安いカラ」
 ホラ、と鞄を持ったまま器用にチラシを取り出した。紫が「無駄にスタイリッシュ!」と目をキラキラさせている。そういうのが好きな妹なのだ。
 チラシを紫に押しつけながら、スーパーまで歩く。
「特に肉ゲットできなかったら、一週間ノーミート生活だからネ。心してかかるよーに」
「な、なんだってー!!! えーえーりゃく」
「ハイハイ」
「うーん、陸上部で鍛えたこのぼくが頑張るしかないな! むいちゃん基本貧弱だもんね!」
「それは違う。貧弱なのはつっきーだヨ。おれは極力ホンキとゆーものを出したくないダケ」
「そぉ?」
「そぉ」
 いつも通りのくだらない話をしながら。
 タイムセール迫るスーパーまでの道を、紫の歩調に合わせながら歩いた。



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Author:灰島懐音
辺境の地へようこそ! 今日から貴方も変わり者ですネ!

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蒼空のフロンティア(http://souku.jp/)でゲームマスターというライター業を務めております、灰島懐音です。
ただの馬鹿アホ変態です。残念な子。

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連絡先:ruri_kohaku_211★yahoo.co.jp
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